学部課外活動「ベンチャー体験工房」教育の一環として、外部講師による特別講義は下記の通り予定されています。
興味のある方は、是非ご聴講下さい。
・日時:2019年5月27日(月) 17:00-18:40
・場所:研究棟325-F
・講師:早稲田大学人間総合研究センター 招聘研究員 戸川達男先生
・題目:心臓ペースメーカーの機器開発と患者ケア
・要旨:
心臓に電極を装着して微弱な電気刺激を加えることによって心収縮を起こすことができることは1930年以前から知られていたが、1950年代に電池式の植込み型ペースメーカーが開発されて以来長期間のペーシングが可能となり、不整脈の治療に広く用いられるようになった。日本でも1960年代にペースメーカーの臨床使用が始まり、1970年代には最も完成度の高い人工臓器のひとつと見なされるまでになった。日本では1960年代にペースメーカーの機器開発が始まって多くの研究成果があったが、製品となったものはなく、今日においても国産のペースメーカーは皆無である。
一方、ペースメーカーの臨床においては、患者と家族に加えて、医師、工学者等の関係者が協力して患者ケアを支援するための組織が生まれ、日本独自の発展をとげた。すなわち、ペースメーカの臨床使用が始まって間もない1966年に、東大に「ペースメーカー友の会」が発足し、1970年に全国組織となって「日本心臓ペースメーカー友の会」が発足して、今日までに一万人以上のペースメーカー植込み患者が会員となっている。その働きとして、機関誌、総会、支部活動等を通して、ペースメーカーに関する最新情報の提供をはじめ、健康管理や日常生活の情報交換のほか、社会奉仕などの具体的な事例を紹介して、身体のケアにとどまらず、心のケアの支えとなっている。
このように、心臓ペースメーカーは、他の多くの医療機器と同様に20世紀中頃に出現して急速に発展して20世紀末には極限に近い完成度に至った技術のひとつだが、心のケアにおいて日本独自の発展が見られたことが注目される点であり、将来の医療を考える上で参考にすべき事例であるように思われる。